「台湾総統選挙と中台関係」
台湾総統選は投票率71.86%で与党・民進党の頼清徳が勝利し、1996年以来、同一政党が初めて3期連続して与党となった。副総統が総統になった初の事例で、3党の副総統候補はいずれも米国を意識した布陣であった。3割が民進党支持で、国民党支持はその半数程度だが、不動票が多く、民衆党が両党の票を食った。台湾の世論調査で自らを台湾人であると回答したのは6割、中国人でもあると答えたのは3割、中国人と言い切る人はほとんどいない。現状維持が6割、やや独立が2割で、台湾独立を問うのは中国であり、与野党とも反米親中ではないというのが台湾問題を考えるうえでの大前提だ。また、47%は中国が台湾統一を狙ってくると考えているが、6割強の市民が台湾有事は起こらない、過半数が92年コンセンサス、一国二制度に反対しながら7割超が対中交流を増やすべきと考えていることにも注目しておきたい。
国民党が92年コンセンサスを支持していることが侯友宜の敗因で、92年コンセンサスを認める以上、今後も立法院では勝てても総統選で勝つのは難しいだろう。
台湾の将来は台湾が決めるという台湾アイデンティティを保持するためには日米との関係強化は不可欠。李登輝が中国との統一を避けるために中台双方が中台は一つとする92年コンセンサス、「中華民国在台湾」(中華民国は台湾にあり)に至った。しかしこのコンセンサスは2000年まで公表されず、民進党は法的根拠を認めておらず、蔡英文は「中華民国台湾」(中華民国は台湾と一体化している)として中国とは一定の距離を取ると主張してきた。
独立派の頼清徳は米国から警戒されているが、世論は過激な台湾独立に反対しており、副総統として蔡英文のバランス外交を見てきた経験から蔡英文の安全路線を踏襲していくだろう。
川島氏は92年コンセンサス以前から中台は裏では詳細に情報共有があったと指摘。このほか、日本の台湾総統選報道について、「頼清徳が米国寄り、侯友宜が中国寄りという報道が目立ったが、台湾の安全が米国に頼らないことはありえず、3党とも副総統は米国に強い人選であることからこの見方は当たらない」と述べた。また、台湾総統選への中国の選挙介入や副総統・蕭美琴の訪米の可能性、2035年まで習近平政権が続く見通しなどについて解説した。台湾海峡の平和については「平和の定義が曖昧」とし、日台交流については「政治交流が薄く、大学の台湾研究ポストもなく、日台関係がいいとはとても思えない」との危機感を示した。